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現場レポート・調査

【支援現場レポートvol1】スキマバイトアプリが生み出す新たな労働者とは

フードバンク仙台では、食料支援のほかに労働相談も受け付けています。今回、労働時間中に労働災害に遭い、企業が責任を果たしてくれないという問題を抱えたAさんという方の相談を受けました。Aさんは、全身に大けがを負い、現在は杖を使わないと歩けない状況です。10分立っているのもつらく、今後事故前のような状況に戻る見込みもありません。また、けがの影響で働くことができず、経済的な状況はかなり厳しくなっています。今後Aさんは会社に責任を負わせるためにユニオンに加入し、会社と交渉を進めることになりました。フードバンク仙台では、Aさんの交渉をサポートするため、今後も食料支援を行っていく予定です。

今回のブログでは、Aさんとの話のなかで見えてきた、「スキマバイトアプリ」による労働の危険性について見ていきます。

労災に遭った経緯
 Aさんは、「スキマバイトアプリ」シェアフルを使い、大手宅配ピザチェーン店で働いていました。配達中にバイクで単独事故を起こし、足の複雑骨折、肋骨の骨折などの症状を負っています。Aさんは事故にあったとき,ワインを再配達している途中でした。そのワインは配達する際に店長が入れそびれたために再配達する必要がありました。ワインを配達する前に店長から急いで配達するように言われ、Aさんは焦って配達を行いその最中に事故に遭ってしまいます。事故にあった後すぐに、治療費は大手宅配ピザチェーン店が負担するといわれましたが、結局支払われず、大手宅配ピザチェーン店から受け取ったのは店長からの見舞金3000円のみです(現在は労災が下りています)。Aさんは現在けがの影響で働くことができず、今後も体調が事故前のように戻ることはありません。大手宅配ピザチェーン店、シェアフルは事故に対し責任を負う必要があります。

Aさんの雇用形態
 Aさんはシェアフルに登録をし、シェアフルを通して大手宅配ピザチェーン店で働いていました。Aさんと大手宅配ピザチェーン店は雇用契約を結んでいるため、大手宅配ピザチェーン店はAさんに対して様々な責任を負う必要があります。労働者がけがをし、かつ企業に過失がある場合、企業が生活をサポートする必要があります。Aさんとユニオンは大手宅配ピザチェーン店に過失責任があるとして、責任を問おうと交渉しています。

Aさんがシェアフルを通して大手宅配ピザチェーン店で働いていた経緯
 Aさんはシェアフルやタイミーを使って毎日のように働いていました。シェアフルやタイミーは日雇いの仕事を紹介するアプリであり、Aさんの働き方と、シェアフルやタイミーが提供しているサービスはマッチしていないように感じます。Aさんは正規雇用の仕事を見つけることができず、またアルバイトやパートといった中長期間の非正規雇用の仕事も見つけることができませんでした。そこでシェアフルを使い、日雇い労働の形でアルバイトと同じ仕事内容をこなしていました。Aさんと、アルバイトの人の仕事内容は同じであるのに、アルバイトの人よりも日雇い労働の形式で働いているAさんの職場内での立場は低かったそうです。

日雇い労働者=都合のよい労働者
シェアフルやタイミーといった日雇い労働の仕事を紹介するアプリは、学生や主婦などがすきま時間を使ってお金を稼ぐことができる良い面もあるとされていますが、企業にとってすぐに解雇でき、労働環境に文句も言わない都合の良い労働者を提供している面もあります。Aさんのように日雇い労働という形式で長期間同じ事業所で働いている場合、外見はアルバイトと変わりません。ですが、アルバイトと異なり事業所はいつでも日雇い労働者を解雇することができます。そのため、事業所が労働者にたいし不合理なことを行ったとしても、日雇い労働者は解雇されることを恐れて意見を言うことができません。そのため、事業所は日雇い労働者をより都合のよい形で働かせることができてしまいます。実際にAさんは大手宅配ピザチェーン店で働いていたときに、釣り銭の計算が合わず、その差額を自腹で払わされたことがありました。しかし解雇されることを恐れて意見を言うことができませんでした。

また、企業は日雇い労働者の安全を考慮していない場合があります。Aさんが働いていた大手宅配ピザチェーン店では、アルバイトの配達員に対して約10時間の研修をし、安全に配達を行えるようにしているのに対し、日雇い労働の配達員に対しての安全対策は約15分の動画を用意するのみでした。大手宅配ピザチェーン店の店長はこの待遇の違いの理由として「日雇い労働者は再び働いてくれるかわからない。再び働くかわからない労働者に対して研修を行うのは無駄。」と答えています。安全を確保せずに日雇い労働者を雇うのはあまりにも無責任だと感じます。

複数の企業で働いている「日雇い労働者」が労災にあうと…?
 Aさんは事故に遭う前、大手宅配ピザチェーン店の配達の仕事以外にも、シェアフルやタイミーを使い、レンタカーの会社で日雇いバイトをしていました。Aさんのパートナーは現在働くことのできない状態にあるので、複数の事業所で働くことでなんとか2人分の生活を成り立たせていたのです。現在Aさんには労災認定がおり、休業補償がもらえることになりました。休業補償とは、労働災害に遭い、働くことができなくなった人に対して平均賃金(過去3ヶ月の一日あたりの賃金)の8割が支給されるというものです。2020年に法が改正され、ダブルジョブの労働者が労働災害に遭った場合、休業保障を算定する平均賃金は複数の事業所の賃金を合算して求めることになりました。しかし、日雇い労働者が複数の事業所で働いていた場合、賃金は合算されません。ゆえに、Aさんの場合は大手宅配ピザチェーン店で働いていた分の日給のみが平均賃金とされ、休業補償として一日に4000円しかもらえないことになっています。するとAさんとAさんのパートナーは一月120000円で暮らすことになり、生活保護を受給した場合支給される163360円を下回ってます。月120000円の収入では到底生きていけません。企業は労働者を働かせて利益を上げている以上、労働者の勤務中のけがについて責任を持つべきです。責任を果たすために、せめて生活できる最低限の保障をするべきではないのでしょうか。

フードバンク仙台では、Aさんのように労働問題を抱えている方の相談を受け付け、一緒に企業に対し戦っています。もしこのブログを読んでいただいた方で労働問題を抱えている方がいらっしゃいましたら遠慮なくご連絡ください。

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